2012年05月16日
青い炎を灯せ74
その日、明江は清涼殿でゆっくりめざめた。三河丸が宮のすぐ下まで来ていて、信楽の宮で行基の大僧都就任の詔が出されたと聞いた。長屋王が唐の僧に提案してもらい天皇不在の中、行基本人に伝えられたと言う。信楽の宮には大勢の農民がお祝いに集まったとも知らされた。身振り手振り話す姿を見ていると21世紀のテレビのレポーターを思い出した。そう言えば、もうしばらくワイドショーも見てないなあと思って苦笑いする。
「ねえ、三河丸。あなたには親や兄弟はいないの?」
明江は急に三河丸の家族を思った。三河丸が笑う。
「おれの親は三河の国にいるよ。なんにもない田舎でさあ、この御殿なんか一度でいいから見せてやりたいな」
三河丸は遠い目をした。
「ねえ、三河には帰らないつもり?」
明江の問いかけに三河丸は笑って手のひらをふった。
「三河は遠いよ。それに旅の途中食べる干し飯も手に入らないし」
三河丸はさびしそうだった。明江にもこみ上げてくるものがある。
「でもさあ、三河丸はいいよ。離れていても陸続きだもん。三河は」
明江は言いながら一粒涙をこぼした。三河丸はまばたきしながら明江を見た。
「皇后様。唐のお坊さんみたいなこと言うんだ」
明江はうなずきながら自分のお腹をなでた。中でゆっくりと動くのを感じた。
「ねえ、三河丸。あなたには親や兄弟はいないの?」
明江は急に三河丸の家族を思った。三河丸が笑う。
「おれの親は三河の国にいるよ。なんにもない田舎でさあ、この御殿なんか一度でいいから見せてやりたいな」
三河丸は遠い目をした。
「ねえ、三河には帰らないつもり?」
明江の問いかけに三河丸は笑って手のひらをふった。
「三河は遠いよ。それに旅の途中食べる干し飯も手に入らないし」
三河丸はさびしそうだった。明江にもこみ上げてくるものがある。
「でもさあ、三河丸はいいよ。離れていても陸続きだもん。三河は」
明江は言いながら一粒涙をこぼした。三河丸はまばたきしながら明江を見た。
「皇后様。唐のお坊さんみたいなこと言うんだ」
明江はうなずきながら自分のお腹をなでた。中でゆっくりと動くのを感じた。
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15:41
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2012年05月16日
青い炎を灯せ73
天皇が帰って行くと明江は長屋王を呼んでもらった。長屋王は行基が天皇自身であることを知っている。そして、左大臣として朝廷の中枢にいて信楽と平城京を行き来しているので、天皇が旅行に出かけることがあれば留守の司として職能代行ができる。
「皇后様。それは良いお考えだと存じます。今、民の心は天子様から離れています。それを取り戻すには大仏建立、そして、行基様の人気は大きいでしょう」
長屋王はすぐに納得して信楽へ向けて発った。天皇の旅行(のふり)の手配も引き受けてくれた。明江は安心した。
その次の日、信楽からの使いが来て天皇が鈴鹿へ旅立ったことと、その出発間際に行基を大僧都(仏教界の最高位)にするように詔して行ったことが伝えられた。その日は何事もなかったが、次の日には宇合が明江を訪ねてきた。腕を組んだままでうろうろしている。
「まったく、どうなっているんだ。天子様は。何が旅行だ。それも、長屋王なんぞを留守の司にして、行基を大僧都だと」
鼻から火を噴きそうな怒り具合だった。明江はそばに行ってニコリとする。
「宇合兄さん。そんなに怒らないで。行基は民に人気があります。敵に回すよりは、ここは味方につけましょうよ。どうでしょう。行基に人を集めてもらって私たち藤原氏の氏寺を建てるというのは」
明江の言ったことに宇合は一度宙を見た。それから目を輝かせてうなずいた。
「光明子。おまえにもそんな気持ちがあったのか」
「あたりまえでしょう。兄さん。私だって藤原氏の血が流れているのよ」
明江は言いながら、心の中で舌を出していた。
「皇后様。それは良いお考えだと存じます。今、民の心は天子様から離れています。それを取り戻すには大仏建立、そして、行基様の人気は大きいでしょう」
長屋王はすぐに納得して信楽へ向けて発った。天皇の旅行(のふり)の手配も引き受けてくれた。明江は安心した。
その次の日、信楽からの使いが来て天皇が鈴鹿へ旅立ったことと、その出発間際に行基を大僧都(仏教界の最高位)にするように詔して行ったことが伝えられた。その日は何事もなかったが、次の日には宇合が明江を訪ねてきた。腕を組んだままでうろうろしている。
「まったく、どうなっているんだ。天子様は。何が旅行だ。それも、長屋王なんぞを留守の司にして、行基を大僧都だと」
鼻から火を噴きそうな怒り具合だった。明江はそばに行ってニコリとする。
「宇合兄さん。そんなに怒らないで。行基は民に人気があります。敵に回すよりは、ここは味方につけましょうよ。どうでしょう。行基に人を集めてもらって私たち藤原氏の氏寺を建てるというのは」
明江の言ったことに宇合は一度宙を見た。それから目を輝かせてうなずいた。
「光明子。おまえにもそんな気持ちがあったのか」
「あたりまえでしょう。兄さん。私だって藤原氏の血が流れているのよ」
明江は言いながら、心の中で舌を出していた。
Posted by ひらひらヒーラーズ at
00:39
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