2012年08月16日

青い炎を灯せ117

 西から吹く風が土煙を運んできた。明江の顔が引き締まる。
「さあ、みんな、戦うよ」
 明江は右手をふりあげた。男たちが答える。玄奘三蔵もうなずいて歩き出した。
 
 砂煙の中から、群衆が現れた。みんなボロボロの布を身にまとい、手に持っているのは木の棒くらいだった。明江達の群れより人数は多そうだが、戦う気力があるようには見えない。
「ああ。隣村のやつらだ」
 明江の横にいた男がつぶやいた。
「おおい。なんでこんなことしてんだ?」
 男が笑って話しかけると、隣村の男は焦点の合わない目をして弱い声を出した。
「遠くで反乱が起こったらしい。どうせこのまま死んでいくなら、俺たちも一か八かやってみるだ」
 男はゆっくりと手にしていた棒を持ち上げた。
「やめろよ。そんなもんじゃ国は変わっていかないんだ」
 都の男が楽々と棒を取り上げた。隣村の男はへなへなと座りこんだ。他の男達も同様に都の者の前に屈していく。あちこちからすすり泣きが聞こえた。
 明江は複雑な思いで見ていた。行基として天皇がやっていることは都から1ッ歩出れば届いていないばかりか逆に恨みさえもっているのだ。
 都の男が隣村の男たちの前に出た。
「みんな聞いてくれ。行基様というすばらしいお坊さんが、田んぼを作ってくれるぞ。もうすぐそっちにもいくぞ」
 男達は目を輝かせて言った。  


Posted by ひらひらヒーラーズ at 08:14Comments(0)

ロゴ

新規登録 | ログイン | ヘルプ
 [PR] 簡単・無料!どすごいブログをはじめよう!