2011年02月14日

草砥鹿姫が現代に3 友引ツーリングクラブ

 切ない目で見つめあう梨花と康平。まもなく会えなくなる二人に夕暮れが近づいてくる。まわりも見回せば誰もいない。どちらからともなく顔が近づいていく。
「バフバフバフバフ~ン」
 このシチュエーションで信じられない大音響があたりを切り裂いた。ボロボロのスクーターが近づいてくる。
「やあ。愛し合ってるねえ。若い二人。ごめんね邪魔して~。人の恋路を邪魔するやつは馬にけられてしんじまえ~なんちゃって~」
 黒い着物に錦の袈裟をつけた坊さんが二人の横にスクーターを止めてヘルメットをとった。
「しらみやさん。今日は法事ですか」
 梨花が呆れて声をかけた。康平もしらけた顔で見た。
「法事はまあ、あったんだけどね。それはまあ、ふだんの仕事。今日はねえ、ちょっともうけ話があってねえ。ツーリングクラブのメンバーが集まるのよ」
「ツーリングクラブって、あの友引ツーリングクラブですか?」
 康平が聞いた。
「そう。ぼくら、仏に仕えるものでも、やっぱり楽しみたいわけよ。みんなで、だけどねえ。人はこちらの都合なんか聞かずに死んじゃうからねえ。いっしょに行けるのは友引の日だけ」
 しらみやと名のった坊さんは早口で言った。
「もうけ話って、なんか悪いことするんじゃないでしょうね」
 梨花がしらみやをにらみつけた。
「失礼なこと言わないでほしいな。ぼくはいつも人助けしかしない」
 しらみやの言葉に二人はしらけた顔をした。
「信じてないな。じゃあちょっとだけ教えようか。東名高速の近くに砕石場があるだろ。あそこに去年高層マンションが出来たよな。あそこの最上階に化け物が出るんだって。それをね。ぼくたち、友引ツーリングクラブの名僧たちが退治しにいくんだよ」
 しらみやは、梨花と康平に顔を順に見てから本堂に消えていった。  


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2011年02月14日

義理チョコの運び屋?

 バレンタインでいただきました。
 
 息子も妻もなぜか手前の大きいチョコがお気に入り。このチョコ2月になるとある方から宅急便で送ってき

ます。こんなメッセージをそえて

「しらみやさん。今年も運び屋お願いね。届け先は一つずつ書いてあります。ちゃんと届けてくれたら、ご

ほうびに一枚あげます♥」

 今年は7枚ありました。ちゃんと配ってきて、1枚ゲットしましたが…。持ってかえると妻と息子が奪い合

っていました。その姿はまるで水牛に襲い掛かるピラニア☠

 今年も見ました家庭内大自然の驚異

 これがほんとの「ギリギリチョコっと幸せ」

おあとがよろしいようで!  


Posted by ひらひらヒーラーズ at 21:13Comments(0)

2011年02月14日

草砥鹿姫が現代に2

 現代の三明寺のまえ、自転車に乗った高校生が石ころをけりながら待っていた。手にはなにか包みを持っている。
「ごめん。待たせた?」
 坂の上からすごい勢いで自転車が下りてきた。女子高生だった。
「これ」
 少年は照れくさそうに包みを出した。そういえば、今日は3月14日ホワイトデーだった。
 女子高生もちょっと顔を赤くして、包みを受け取った。
「3年間、続いたね」
 包みを見ながら女の子が言った。
「中学の同級生たち、みんな言ったもんね。3ヶ月で別れるって」
 少年が言った。彼らは小学校からの同級生だった。中学に入っても何人かのグループで遊びに行ったりしていたが、中学卒業のときに少年が告白してつきあい出したのだ。少年は康平、豊橋の高校に通っている。少女の方は梨花、一宮町の高校に通っている。二人ともこの春卒業を迎える。
「ねえ、大学決まった?」
 梨花が小さな声で聞いた。
「うん。奈良の学校。国文科に行くんだ。歴史勉強する。梨花ちゃんは?」
「私は神奈川」
 二人ともちょっとだまってから、三明寺を見上げた。やわらかい風が本堂から吹いてきた気がした。
「今までみたいに会えなくなるね」
 梨花が言った。これまでの3年間は、学校の帰りに駅で待ち合わせしてほとんど毎日会っていた。
「あのさあ、おぼえているかな。小学校5年生の時、運動会のとちゅうで抜け出して怒られたことがあったよね。あのとき、これ拾ったんだ」
 康平はポケットから、水色の石を出した。
「ひすいじゃない」
 梨花は手に取った。なにか生き物のように暖かい。
「暖かいだろ。不思議に思ってさ、その時からずっとお守りみたいに持ってたんだ。これ、梨花ちゃん持ってて」
 康平は梨花の目をじっと見た。中学卒業の告白の時、どきどきする胸を押さえるために、ポケットの中で握りしめていたことはまだ秘密にしていた。
 梨花はだまったままで受け取った。
「卒業しても、心はいっしょだと思うけど、おたがい、縛るのはやめようね」
 梨花が小声で言った。康平は、子犬のような目で梨花を見た。手の中の水色の石がかすかにゆれたが、梨花は気づかなかった。
   


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