2012年05月07日
青い炎を灯せ68
明江はいったん清涼殿にもどると信楽へ手紙を書くことにした。筆で書く毛筆も知らないし、手紙の作法も知らないので女官にかわりにかいてもらった。これは特にめずらしいことでもなかったらしい。女官はあっさり筆をとった。
行基のことを心にとめていること。悪い人たちではないと思っていること。民達には人気があることなどをたんたんとかいた。明江自身は天皇が行基本人であることは知っているが、女官の手前そんなことは書けない。あたりさわりなく書いた。天皇のことだから明江から手紙がいっただけで何か動きがあるだろうと思った。
手紙を出したあと、女官に頼んで宇合にも手紙を書いた。こちらははっきりと「行基の下の者たちを解放しなさい」と書いた。問題があるなら明江が聞くとも書いた。
ほどなくして宇合がやってきた。どうやら平城京にいたらしい。
「光明子。どういうつもりだ。国の問題に口を出すなよ」
宇合はいきなり兄の態度になった。明江は宇合を見すえた。ゆっくりと口を開く。
「私は仮にも皇后です。天子さまとともに国を思い動くのは当然です」
そのどうどうとした言い方に宇合はたじろいだ。
「行基は私もよく知っていますが、自分の利益だけを考えるようなものではありません」
明江のことばに宇合の目が光った。
「行基とどこで会った。あと不思議なのは、行基が現れたと聞いた日に限って天子様がいないのだ。信楽に」
宇合のことばに明江は視線を宙に泳がせた。
行基のことを心にとめていること。悪い人たちではないと思っていること。民達には人気があることなどをたんたんとかいた。明江自身は天皇が行基本人であることは知っているが、女官の手前そんなことは書けない。あたりさわりなく書いた。天皇のことだから明江から手紙がいっただけで何か動きがあるだろうと思った。
手紙を出したあと、女官に頼んで宇合にも手紙を書いた。こちらははっきりと「行基の下の者たちを解放しなさい」と書いた。問題があるなら明江が聞くとも書いた。
ほどなくして宇合がやってきた。どうやら平城京にいたらしい。
「光明子。どういうつもりだ。国の問題に口を出すなよ」
宇合はいきなり兄の態度になった。明江は宇合を見すえた。ゆっくりと口を開く。
「私は仮にも皇后です。天子さまとともに国を思い動くのは当然です」
そのどうどうとした言い方に宇合はたじろいだ。
「行基は私もよく知っていますが、自分の利益だけを考えるようなものではありません」
明江のことばに宇合の目が光った。
「行基とどこで会った。あと不思議なのは、行基が現れたと聞いた日に限って天子様がいないのだ。信楽に」
宇合のことばに明江は視線を宙に泳がせた。
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08:28
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2012年05月04日
青い炎を灯せ67
明江は輿に乗って長屋王の邸に向かった。途中せわしげな官人と何人かすれ違ったが明江の目には入らなかった。
「皇后様」
明江の輿をみつけた。長屋王がかけよってくる。
「長屋王。いったいなにがあったのです」
輿をおりた明江が厳しい口調になる。長屋王は一度明江をじっと見てから頭を下げた。
「今朝、宇合の手の者がたずねてきました。「国が乱れてくるもとなので行基のことを調べたい」と言ってきました。断ったのですが、天子様のご意向だと言われそれ以上逆らえませんでした」
そこまで言って長屋王はもう一度頭を下げた。
「連れて行かれた者たちは、縄をかけられていたと聞きましたが」
明江は一番気になっていたことを口にした。
「はい。はじめから、乱暴なあつかいをしていて、途中で一人が大声をあげたものですから縄をかけるようなことになりました」
長屋王は小さな声でいった。
「おかしいじゃない。宇合は行基を養子にしてもいいって言ってたのよ」
明江の声がうらがえった。長屋王はこまった顔をした。
「皇后様」
明江の輿をみつけた。長屋王がかけよってくる。
「長屋王。いったいなにがあったのです」
輿をおりた明江が厳しい口調になる。長屋王は一度明江をじっと見てから頭を下げた。
「今朝、宇合の手の者がたずねてきました。「国が乱れてくるもとなので行基のことを調べたい」と言ってきました。断ったのですが、天子様のご意向だと言われそれ以上逆らえませんでした」
そこまで言って長屋王はもう一度頭を下げた。
「連れて行かれた者たちは、縄をかけられていたと聞きましたが」
明江は一番気になっていたことを口にした。
「はい。はじめから、乱暴なあつかいをしていて、途中で一人が大声をあげたものですから縄をかけるようなことになりました」
長屋王は小さな声でいった。
「おかしいじゃない。宇合は行基を養子にしてもいいって言ってたのよ」
明江の声がうらがえった。長屋王はこまった顔をした。
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08:07
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2012年05月02日
青い炎を灯せ66
その夜、明江は何度も夢でうなされて女官が心配そうに見に来た。眠りに落ちるとすぐに大津の皇子が夢に現れるのである。真っ暗な夜空に血にまみれた皇子がいやな笑いを浮かべている。
「呪われた子を宿した皇后様。どうか元気なお子さんを産んでください」
皇子は明江のまわりを飛び回ってから、最後はイナズマになった。明江の大きなお腹に落ちる。そこで必ず目をさました。汗だくになってお腹をかばって目が覚める。枕元には泣きだしそうな顔の女官がいた。
「ごめんなさいね。ちょっと心配なことがあって」
明江はやっとそれだけ言って目を閉じた。
なんどかそんなことをくり返して朝を迎えると、明江は輿を用意させて法華寺へ向かった。尼さんたちに混じって三河丸が粥を配っているのが見えた。
「三河丸」
明江が身をのりだしたので、輿は少し揺れた。三河丸がびっくりしてかけよってくる。
「皇后様。天子様はお元気ですか?」
輿を担いでいる下級官人に聞こえるようにわざと大きな声で言ってから、輿に近づいて明江の耳元に口をよせた。
「行基様のことがいろいろなところで話題になっています。宇合様が色々調べているようです。何人か農民もつかまったようです」
三河丸が小声で言った。明江は笑顔で返す。
「長屋王が調べているようです。安心してください」
明江が微笑んだところへ、舎人の親王が走ってきた。
「皇后様。今、長屋王邸から宇合さまが出てきました。縛られた男が何人かいて、長屋王様と宇合さまが大きな声で話しているのを聞きました。
それを聞いて明江は昨夜見た夢を思い出した。どうつながるかは分からないが不吉な気がした。
「呪われた子を宿した皇后様。どうか元気なお子さんを産んでください」
皇子は明江のまわりを飛び回ってから、最後はイナズマになった。明江の大きなお腹に落ちる。そこで必ず目をさました。汗だくになってお腹をかばって目が覚める。枕元には泣きだしそうな顔の女官がいた。
「ごめんなさいね。ちょっと心配なことがあって」
明江はやっとそれだけ言って目を閉じた。
なんどかそんなことをくり返して朝を迎えると、明江は輿を用意させて法華寺へ向かった。尼さんたちに混じって三河丸が粥を配っているのが見えた。
「三河丸」
明江が身をのりだしたので、輿は少し揺れた。三河丸がびっくりしてかけよってくる。
「皇后様。天子様はお元気ですか?」
輿を担いでいる下級官人に聞こえるようにわざと大きな声で言ってから、輿に近づいて明江の耳元に口をよせた。
「行基様のことがいろいろなところで話題になっています。宇合様が色々調べているようです。何人か農民もつかまったようです」
三河丸が小声で言った。明江は笑顔で返す。
「長屋王が調べているようです。安心してください」
明江が微笑んだところへ、舎人の親王が走ってきた。
「皇后様。今、長屋王邸から宇合さまが出てきました。縛られた男が何人かいて、長屋王様と宇合さまが大きな声で話しているのを聞きました。
それを聞いて明江は昨夜見た夢を思い出した。どうつながるかは分からないが不吉な気がした。
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2012年05月01日
青い炎を灯せ65
天皇はしばらく明江のもとにいたが、しぶしぶ輿にのり信楽へ帰っていった。
明江は近くにいた女官に輿を用意してもらい長屋王の邸に向かった。歩いても一五分ほどの距離である。ほんとは景色でもながめながら一人で行きたいところだったが、お腹に子どもが出来てからまわりが気を使って輿でなければ出かけさせてくれない。
「これは皇后様。先ほどまで天子様がいらしていたとうかがいましたが」
長屋王は片腕を胸の前で曲げて頭をさげた。
「長屋王。天子さまからもお聞きしましたが、行基とかいうお坊さん活躍されているそうですね」
明江はじっと長屋王を見た。長屋王は表情をくずさず、視線もそらさない。ゆっくりと口を開いた。
「行基の仲間になっていた者たちを連れてきました。何度も聞くのですが、行基のことは話そうとしません」
そこまで言って、長屋王は明江の目をじっと見た。鋭い目線がつきささる。
「皇后様。なにかご存じなのですね」
長屋王は一歩間合いをつめた。明江がたじろいで下がる。
「私はなにも知りません。行基の仲間たちに会わせてはくれませんか」
明江はやっとそれだけ言えた。長屋王は一度目をとじてからうなずいたが、面会には長屋王が立ち会うと言う。明江はだまってうなずいた。
男たちは、離れ邸にいた。見張りの者はいたが閉じこめられている風でもない。本人たちに聞いてもひどい目にあわされているようではなかった。むしろうまい物を食べさせてもらい、賓客として扱われいるようだった。ただ行基についてなにも知らないとくり返した。長屋王もそれは信じているようだった。
明江は安心して清涼殿にかえった。
明江は近くにいた女官に輿を用意してもらい長屋王の邸に向かった。歩いても一五分ほどの距離である。ほんとは景色でもながめながら一人で行きたいところだったが、お腹に子どもが出来てからまわりが気を使って輿でなければ出かけさせてくれない。
「これは皇后様。先ほどまで天子様がいらしていたとうかがいましたが」
長屋王は片腕を胸の前で曲げて頭をさげた。
「長屋王。天子さまからもお聞きしましたが、行基とかいうお坊さん活躍されているそうですね」
明江はじっと長屋王を見た。長屋王は表情をくずさず、視線もそらさない。ゆっくりと口を開いた。
「行基の仲間になっていた者たちを連れてきました。何度も聞くのですが、行基のことは話そうとしません」
そこまで言って、長屋王は明江の目をじっと見た。鋭い目線がつきささる。
「皇后様。なにかご存じなのですね」
長屋王は一歩間合いをつめた。明江がたじろいで下がる。
「私はなにも知りません。行基の仲間たちに会わせてはくれませんか」
明江はやっとそれだけ言えた。長屋王は一度目をとじてからうなずいたが、面会には長屋王が立ち会うと言う。明江はだまってうなずいた。
男たちは、離れ邸にいた。見張りの者はいたが閉じこめられている風でもない。本人たちに聞いてもひどい目にあわされているようではなかった。むしろうまい物を食べさせてもらい、賓客として扱われいるようだった。ただ行基についてなにも知らないとくり返した。長屋王もそれは信じているようだった。
明江は安心して清涼殿にかえった。
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